熱中症を栄養面で予防する方法
目次
熱中症の基本知識
そもそも熱中症とは?
熱中症は、高温・高湿度の環境下で、身体の体温調節機能が追いつかなくなり、体温が異常に上昇することで起こる疾患です。
主に、体温調節機能の異常や、適切な水分・電解質(ナトリウム、カリウムなど)の補給が行われないことが原因とされます。
- 体温調節機能の概要: 人体は通常、37℃前後で一定の体温を保つように調節されています。この調節は、汗をかいて体温を冷やす「発汗」や、血管を拡張して体温を放散する「血管拡張」などの仕組みによって行われます。
- 熱負荷と体温調節: 高温・高湿度の環境下での激しい運動や労働は、体の「熱負荷」を増大させます。この熱負荷が持続すると、体温調節機能が追いつかなくなり、体温が上昇してしまいます。
- 水分・電解質の重要性: 体温調節のために汗をかくことは、熱を放散する重要な機能です。しかし、大量の汗をかくことで体から水分や電解質(ナトリウム、カリウムなど)が失われ、これが補給されないと、熱中症のリスクが高まります。
熱中症の具体的な症状
熱中症の症状は、軽度から重度までさまざまです。以下は一般的な症状のリストです
軽度の症状:
- 顔が赤くなる
- 軽いめまいや立ちくらみ
- 頭痛
- イライラ感
- 過度の汗かき
中度の症状:
- 強いめまいや立ちくらみ
- 吐き気、嘔吐
- 脱水症状(乾燥した唇、濃い黄色の尿、尿の回数が少ない)
- 心拍数の増加
- 深くて速い呼吸
重度の症状:
- 体温が40℃以上に上昇
- 意識障害(意識がない、もしくは混乱状態)
- 起き上がることができない
- 発作
- 呼吸が浅くなる、または停止する
- 脈が弱くなる、または感じられなくなる
重度の症状の一つでも現れた場合は、ただちに救急医療の介入が必要です。自身や他人がこれらの症状を示した場合、すぐに病院に直行するか、救急サービスに連絡してください。重度の熱中症は、適切な治療を受けないと致命的になる可能性があるため、迅速な行動が求められます。
適切な水分補給の重要性
脱水の原因となる飲み物
カフェインを多く含む飲み物(例: コーヒー、エナジードリンク):
カフェインには利尿作用があるため、過度な摂取は脱水のリスクを高めます。
エナジードリンクは高濃度の糖分を含む飲料は高い浸透圧を持ちます。
このため、胃や腸からの吸収が遅れる可能性があり、速やかな水分補給としては適していない場合があります。
エナジードリンクは糖分だけでなく、カフェインやタウリンなど他の成分も含まれており、これらの成分が複合的に作用することで脱水のリスクが高まる可能性が考えられます。
何を飲むか?
- 水:
通常の生活や軽い運動の際には、水は最もシンプルで効果的な水分補給方法です。軽い運動や短時間の活動。(例: 30分未満のランニングやストレッチなど。短時間での脱水リスクは低いため、純粋な水分補給で十分です。 - 経口補水液: (OS-1など
熱中症のリスクが高いときや、激しい運動後などの大量の汗をかいた時には、ナトリウムやカリウムなどの電解質を効率的に補給できます。通常のスポーツドリンクよりも電解質のバランスが適切に調整されています。 - スポーツドリンク:(アクエリアス、ポカリ、アミノバイタルなど
長時間の運動や高強度の活動。(例: 1時間以上のバスケットボールの試合や練習。長時間や高強度の運動で失われる電解質やエネルギーを補給するため、糖分は筋肉のエネルギー源として役立ちます。ただし、糖分やカロリーが高すぎるものは避ける。
おすすめ
高校生の部活動、特に中・長時間、または高強度の運動を行う場合は、スポーツドリンクがおすすめです。
ただし、糖分やカロリーの摂取を過度に増やさないよう、内容成分を確認することも大切です。
環境が非常に暑く、脱水や熱中症のリスクが高まる場合、部活の休憩時や終了後に経口補水液を摂取することも検討してください。
いつ飲むか?
- 運動前: 運動開始30分前に約200-300mlの水を摂取。
- 運動中: 10-20分ごとに100-200ml程度を目安に水分を補給。激しい運動の場合はスポーツドリンクの選択がおすすめ。
- 運動後: 運動後30分以内に失われた水分や電解質を補う。これはリカバリーのためにも重要です。(下記具体例)
運動後の水分補給の目安
- 失われた体重の補充:
- 運動前と運動後での体重を計測することで、運動中に失われた水分量を大まかに把握することができます。
- 体重が1kg減少している場合、約1~1.5リットルの水分を摂取することを目安にします。これは、1kgの体重減少が約1リットルの水分喪失を意味するためです。
- 電解質の補給:
- 汗とともに失われる電解質(特にナトリウムとカリウム)を補給するため、スポーツドリンクや経口補水液の摂取を考慮すると良いです。
- 具体的な摂取量の目安:
- 軽い運動の後: 運動後30分以内に、失った水分量の1.2倍を目安に摂取。
- 中~高強度の運動の後: 運動後30分以内に、失った水分量の1.5倍を目安に摂取。
注意点
- 運動後直後に大量の水を急に飲むのではなく、少しずつ、数回に分けて摂取することがおすすめです。
どのぐらい飲むか?
体重1kgあたりの水分摂取量の推奨値を、基本的な摂取量と運動時の摂取量に分けて、男性と女性の両方について説明いたします。
基本的な水分摂取量(運動をしない日常生活での摂取量)
- 男性: 体重1kgあたり約30〜40ml
- 例: 60kgの場合、1,800〜2,400ml/日
- 女性: 体重1kgあたり約25〜35ml
- 例: 50kgの場合、1,250〜1,750ml/日
運動時の追加水分摂取量
- 男性・女性共通: 激しい運動を1時間行った場合、体重1kgあたり約10〜20mlの追加水分摂取が必要。
- 例: 60kgの男性が1時間の激しい運動をした場合、追加で600〜1,200mlの水分摂取が推奨される。
したがって、部活動を行う高校生(特に激しいスポーツを行う生徒)の場合、運動の強度や時間、環境の条件(気温や湿度)などによって、日常の基本的な水分摂取量に加えて、運動時の追加水分摂取量を考慮する必要があります。
日常の食事から熱中症を予防する方法
熱中症予防のための食事に関するアプローチは、電解質のバランスを保つことを中心に考えた例です
以下は、熱中症予防に役立つ食事のポイントをまとめたものです。
- 電解質を含む食材の摂取
- 熱中症予防には、ナトリウムやカリウム、マグネシウムといった電解質の適切な摂取が必要です。
- カリウム: バナナ、オレンジ、さつまいも、ほうれん草など
- ナトリウム: しょうゆ、味噌、塩、海苔、漬物など(ただし、過剰摂取に注意)
- マグネシウム: アーモンド、ほうれん草、マグロなど
- 熱中症予防には、ナトリウムやカリウム、マグネシウムといった電解質の適切な摂取が必要です。
- 脂質の摂取
- 脂質は体温調節に関与するホルモンの生成に必要です。オリーブオイル、魚、ナッツ、アボカドなどの健康的な脂質をバランスよく摂取しましょう。
- タンパク質の適切な摂取
- タンパク質は筋肉の維持や修復に必要です。暑さで筋肉が疲れやすくなる夏には、鶏肉、魚、豆腐、卵などを適切に摂取することが推奨されます。
- 抗酸化物質を含む食材の摂取
- 暑さによる体の酸化ストレスを和らげるため、ビタミンCやビタミンE、ポリフェノールなどの抗酸化物質を多く含む食材を摂取しましょう。
- ビタミンC: キウイ、パプリカ、ブロッコリー、オレンジなど
- ビタミンE: アーモンド、ひまわりの種、小麦胚芽油など
- 暑さによる体の酸化ストレスを和らげるため、ビタミンCやビタミンE、ポリフェノールなどの抗酸化物質を多く含む食材を摂取しましょう。
上記の例にあげた食材達の摂取が難しければサプリメントでの摂取もおすすめです。
下記にサプリメントで摂取できるその他のオススメ栄養素を記載しておきます
- ビタミンB群
- ビタミンB1 (チアミン): 炭水化物のエネルギー変換に役立つ。
- ビタミンB6: 筋肉の機能やエネルギーの産生に関与。
- ビタミンB12: 赤血球の形成や神経機能に必要。
- アミノ酸
- BCAA (分岐鎖アミノ酸): 筋肉の疲労を軽減し、回復を促進する。
- クエン酸: 疲労物質の蓄積を抑え、疲れを軽減する可能性がある。
熱中症リスク時の緊急的な栄養対策
- 水分補給
- 水分を迅速に補給することは最優先。
- 脱水状態は熱中症の主要な原因となる。適切な水分補給は体温の上昇を防ぎ、体の冷却機能をサポートする。
- 運動中や高温・多湿の環境下で、通常よりも多くの水分が失われるため、定期的な水分摂取が必要。
- 電解質の補給
- 水分だけでなく、電解質(特にナトリウムやカリウム)の補給も必要。
- 汗とともに失われる電解質は、筋肉機能や神経伝達に重要な役割を果たす。
- 経口補水液やスポーツドリンクは、水分とともに電解質を適切なバランスで補給するために設計されている。
- 糖分の適切な摂取
- 短期的なエネルギー供給として、適量の糖分を摂取することが有効。
- 糖分は即時のエネルギー源として働き、体の機能を維持するのを助ける。
- スポーツドリンクに含まれる糖分は、エネルギーを迅速に供給し、持続的な運動をサポートする。
- 冷たい飲み物や氷の使用
- 体温を下げるために、冷たい飲み物や氷を使用することが有効。
- 内部からの冷却は体温の上昇を緩和し、熱中症のリスクを低減させる。
- アイスタオルや冷たい飲み物は、外部からの冷却とともに、体内からの冷却を促進する。
- 高タンパク質食品の避ける
- 熱中症のリスクが高まる状況では、高タンパク質食品の摂取は控えめに。
- タンパク質の代謝は体温を上昇させる可能性がある。
- 熱い日には、重たい肉料理よりも、軽めのサラダやお魚や大豆製品、果物を選ぶことが推奨される。